物語全体のあらすじ
幼少期からともに育ってきた、三人の少年。双子の遊と涼、二人の家の近所に住んでいた五月の三人は、互いに対して複雑な思いを抱えながらも、依存し合って生きてきた。
幼い頃から体の弱い遊は、さりげなく気を遣ってくれる涼と五月を大切に思いながらも、その優しさは遊を除いた二人の結束力から成るものであることを感じ、嫉妬している。そんな感情を抱く自分を変えたい気持ちもあって、狭い世界に閉塞感を感じていた。
遊のことを気遣う家族のなかで、遊を守る兄として強く使命感を抱きつつも、その立場を失えば自分自身のアイデンティティなど何もないと、不安を抱き続けている涼。誰かに自分を見てほしいと密かに願っている。
孤独な家庭環境で育った五月は、双子の遊と涼にしかない心の共鳴に疎外感を覚えながら過ごしていた。それと同時に、幼い頃独りだった五月を救ってくれた涼に、長い間思いを寄せている。
そんな歪に絡まり合った三人の世界が、動き出す出来事が起こる。
高校二年生の春、遊がクラスメイトのスモモに恋をした。
三人の世界の外側でスモモと過ごす時間は、出会ったことのない光で満ち溢れていた。心の中で燻っていた、自由になりたいという欲望はみるみるうちに膨れ上がり、遊の心は次第に、三人の輪の中から離れていく。
遊に置いていかれることを肌で感じ、自分の存在に不安を覚えるようになる涼。五月も涼と同じような喪失感を感じる一方で、これで涼の特別な存在になることが出来るのではないか、と静かに膨らむ期待。
「もっと、外の世界を見てみたい」
ついに遊によって下された宣言。世界に亀裂が入り、支えを失った涼に、五月は咄嗟に声をかけた。
「俺は、涼を置いていったりしない」
以降、近づいていく涼と五月の心の距離。互いに感じてきた孤独を埋め合うように、「俺はお前を見てる」と言葉を重ねていく。
初め、遊とスモモの関係を受け入れられなかった涼は、五月との関係が深まるにつれ、二人に穏やかな眼差しを向けられるようになった。
五月が密かに望んだように、涼の気持ちは五月に傾いていた。しかし五月には、涼の哀しみを利用したに過ぎないのではないか、という罪悪感が付きまとう。涼の気持ちを信じきることが出来ず、耐えきれなくなった五月は涼から離れる決断をする。
独りになった涼は自分の気持ちを見つめ直し、そして一歩、踏み出す。