物語全体のあらすじ
無機質な東京の街で、繰り返しの日常を過ごすメグル。
機械のように皆が決められた役割で動き続ける世界で、彼女は常に窮屈さと共にあった。
メグルは会社の女上司に不注意を咎められるが、他の同僚は彼女の事など見もしない。
閉塞感を抱いたまま会社を出て、社宅に帰り着いた時、メグルは真っ白な髪をした少年と出会う。
――探してた。
そう言って抱きついてきた少年。
少年は自らの名も分からぬ程記憶を失った状態で、何かに追われながら、ただメグルに会おうとやってきていた。
戸惑いつつも、「ユキ」と名付けた少年を保護するメグル。
ユキに抱きつかれ、その温もりに触れながら、メグルは無機質な世界で感じることの無かった「人の匂い」を実感する。
だが僅かな幸せも長くは続かなかった。
突然体調を崩し始めるユキ。やがて意識を失ってしまう。
追われているからと、頑なに外に出たがらなかったユキの事を想うが、彼の命には替えられない。
しかし、ユキを抱えて外へ出たメグルを謎の男達が襲いかかる。
そんな二人を助けたのは、会社の女上司だった。
――急いでここから離れてください。
女上司に導かれるまま、電車に乗って東京の外へと向かっていく。
その車内。既に意識を取り戻していたユキの手を握るメグルの許に女上司がやってくる。
――その少年はもうじき死にます。
女上司の簡潔な言葉。
さらにこう続ける。
――ただ、筑波に行けば治療をする事が出来るかもしれません。
そして女上司はメグルを守るようプログラムされたアンドロイドだと静かに告げる。
突然の事態に混乱するメグル。
ユキは目の前のアンドロイドが信用できないでいた。
二人でどこか別の場所に行きたがるユキ。
だが、ユキを助けるためなら、とメグルがアンドロイドに従う事を決める。
アンドロイドの朱色の髪から「アカネ」と名付けることに。
電車が急停止する。
突然動かなくなった電車を降りたメグルが目にしたのは、途中で途切れた線路と、その向こうに果てしなく拡がる瓦礫の荒野だった。
――20××年、記録上のホモ・サピエンス、所謂「人類」と呼ばれる個体は世界から消滅しました。
淡々とアカネの声が響く。
世界はとっくに滅びていた。
メグルが東京だと思っていたのは、滅びた人類社会の痕跡の上に、機械によって再現された箱庭に過ぎなかった。
あとに残ったのは、文明社会にてプログラムされた役割を演じ続けるアンドロイドだけ。
「東京」から迷い出たアンドロイドを狩る機械生命体が跋扈する、荒野となった関東平野を進んでいくメグルとユキ、アカネの三人。
アカネの目的は? ユキは何者なのか? そして、メグル自身が抱える秘密とは?
メグル達の、長く短い旅が始まる。