ストーリー概要
滝田音楽大学のピアノ科2年の森崎智哉(20)とバイオリン科4年の榊原塁(22)は恋人同士。
しっかり者な智哉は家事が出来ない甘えん坊の塁の面倒をみながら一緒に暮らしていて、毎晩一緒にツィゴイベルワイゼンを弾くのが日課だった。
智哉は優秀なピアノの腕前を持つ上に眉目秀麗な容姿から「ピアノの王子様」と言われ大学内で目立った存在。国際コンクールの予選にも出場予定で2年生ながらにして将来有望視されていて、少し近寄りがたい雰囲気を醸しだしているが、塁から「朝は愛の曲で起こして欲しい」とおねだりされるとこっそり「愛の夢」を練習するなど、塁には深い愛情で接していた。
反対に塁はバイオリニストとして活動できる就職先を探しているが、8月になっても決まらず焦っていた。
ある日、コンクールの件でケンカをしてしまう智哉と塁。そんな中、塁の目の前で智哉は交通事故に合う。その事故は同じ音大の作曲科3年の青島桔梗の不注意によるもので、不運にも智哉は巻き込まれてしまった。
病院に運ばれた智哉と桔梗は治療を受けICUに入るが、智哉は頭を強く打って意識不明な上、右腕が潰れてしまい、
意識が戻ってもピアノは弾けない体となってしまう。
数日後、智哉は目覚めるが、それは体の外に出た智哉の魂で、体はまだ寝たきりだった。
(以後魂の智哉はT智哉と表記)
T智哉は塁や病院スタッフに触れてみるが、手はすり抜け声も届かなかった。
同じICUで治療を受けていた桔梗は、意識が戻りケガも足の骨折だけだったため一般病棟へ移る事になる。
T智哉は偶然桔梗に触れると感触があり、シックスセンスを持つ桔梗もT智哉に気づく。
T智哉は彼を利用出来ないかと考え、桔梗の病室を探す。
T智哉と何度か遭遇した桔梗は気味が悪く、無理やり退院をする。
退院の日、塁はロビーで桔梗とすれ違うが、その時の桔梗の会話から事故の原因の人(桔梗)だと気づき、桔梗につかみかかる。しかし疲労と栄養失調が重なっていた塁が倒れてしまう。
病院から連絡を受けた塁の同級生の桐島悟は、塁の面倒を見始める。
T智哉は塁が心配でたまらず、桔梗の体に乗り移ることを決意するが、それは智哉の体の死を意味していた。
T智哉はマンションで最後のツィゴイネルワイゼンを塁と一緒に演奏すると桔梗の家へ行き、
無理やり体の中に入り込み、智哉は亡くなってしまう。
智哉の死が受け入れらない塁はバイオリンを辞めてしまう。
悟がそんな塁に「俺にお前を守らせて欲しい。好きだ」と告白をするが返事はノー。
(以後、智哉が乗り移った桔梗はT桔梗と表記)
塁の前にT桔梗が現れる。
桔梗のせいで智哉が死んだと思っている塁はその姿を見て激しく拒絶する。
T桔梗は悟を頼り事情を説明する。塁の幸せのためにもT桔梗に協力する。
T智哉が体に入ってから桔梗は疲労感がひどく、めまいなどの体調の変化を感じていた。
その原因がT智哉だと思った桔梗は、指を壊そうとナイフで刺そうとするが思いとどまる。
ある日、塁は悟に連れらえれて向かった大学で智哉のピアノに似た音色を聴くがそこには桔梗の姿。
塁は混乱しつつもその音色が聴きたくて一日おきに大学のレッスン室へ通うようになり、
次第に桔梗の中に智哉がいるのではないかと思い始める。
未完成の曲を完成させたT桔梗は、10月の塁の誕生日に演奏をする。
それを聴いた塁はノートと同じ曲に驚きレッスン室に入り問いただすと、T桔梗は「自分は智哉だ」と話す。
信じられず出て行こうとする塁にT桔梗はバイオリンを渡し、ツィゴイベルワイゼンの冒頭を弾き始める。
塁は思わずバイオリンを構え二人のアンサンブルが始まる。
アンサンブルが終わり、今のは間違いなく智哉のピアノだと思った塁は、桔梗の中に智哉がいることを確信。
二人は抱き合いキスをするが、唇の感触が智哉と違ったため塁はすぐ我に返り、その場を立ち去る。
部屋に戻ったT桔梗は、桔梗さえいなくなれば整形手術で智哉の顔に近づけるのではないかと思い、ナイフで腹を刺そうとするが思いとどまる。
それからも塁とT桔梗は、一日おきに一緒にツィゴイネルワイゼンを弾く日々を送っていたが、恋人として過ごすことはなかった。
桔梗は相変わらず体調不良が続き、不安な毎日を送っていた。
12月になる。就職先が決まっていない塁は母親から卒業したら実家に戻るよう言われており、
考え抜いた結果、実家に戻ることを決める。
クリスマス、塁はT桔梗に年が明けたらマンションを引き払う事を告げる。
T桔梗は「マンションのピアノが弾きたい」と塁に頼み込み、二人はマンションへ向かう。
そしてT桔梗は「愛の夢」を演奏する。
「甘い曲で起こして欲しい」と以前おねだりしたことを思い出した塁は、
「やっぱり智から離れられない」と思い、その晩二人は一夜をともにする。
翌朝、塁のマンションで目が覚めた桔梗は、裸で塁とベッドに一緒にいることに驚き、慌てて部屋をでる。
塁も桔梗を追いかける。
そしてあの事故に合った交差点に差し掛かると、桔梗はひどい眩暈でフラフラと道路に出てしまい、車にぶつかってしまう。
また目の前で事故を目撃した塁は、意識を失い倒れてしまう。
塁が目を覚ますとそこは病院で見覚えのあるナースがいた。
ICUには顔が包帯で巻かれた桔梗が眠っていた。
塁はドクターから「瞬間的に腕を守ったのか奇跡的に腕は無傷だが顔の損傷がひどい」と言われる。
数日後、桔梗の傍で眠っていた塁は頬を優しくなでられ目を覚ます。頬を撫でていたのT桔梗だった。
そして桔梗は翌日も翌々日も現れなかった。
歩けるまで回復したT桔梗は、塁から桔梗が腕を守ってくれたことを聞かされる。
その夜、眠っているT桔梗の夢に桔梗が現れ、「体はやるよ」と告げる。
T桔梗の目から涙が流れる。