僕の心に住み着く龍

作者桝野いく

 前田広樹は、中堅電機メーカーの営業として勤務している。同性愛者である彼は自分の性癖を心に秘めたまま平穏な生活を送っていた。そんなある日、大きな仕事に失敗をしてバーで酔いつぶれていた彼は、店内で会合を行っていたヤクザ集団に無謀にも喧嘩を売ってしまい、ボコボコに殴られて気を失ってしまう。気が付くと彼…

 前田広樹は、中堅電機メーカーの営業として勤務している。同性愛者である彼は自分の性癖を心に秘めたまま平穏な生活を送っていた。そんなある日、大きな仕事に失敗をしてバーで酔いつぶれていた彼は、店内で会合を行っていたヤクザ集団に無謀にも喧嘩を売ってしまい、ボコボコに殴られて気を失ってしまう。気が付くと彼は自宅マンションのベッドで横になっていたが、その隣では刺青の入った大柄な男も寝息を立てていた。篠山龍生と名乗るその男はとある組織の幹部候補として血なまぐさい日々を過ごしていた。


 その後もことあるごとに広樹のマンションに入りびたる龍生。最初は龍生を邪険に扱っていた広樹だが、お互いの生活を語り合う内に、龍生のワイルドな魅力や自由奔放な生きざまに惹かれて行く。龍生の方も、組織の範囲外でゆったりと過ごせる広樹との時間が、かけがえのないものになっていく。

 

 お互いに心の隙間を埋めあう関係だったが、平穏な日常はそう長くは続かなかった。非業の死を迎えるその日まで。