八月三十一日
学生が夏休みの課題に追われている八月の終わり。乗車しているバスが揺れる度に、佐倉晃の足元でビニール袋がガサガサと音を立てている。
電車とバスを二本乗り継ぎ、晃がぼんやり窓の外の景色を見ていると、最寄りのバス停がアナウンスされた。ハッとした晃が降車ボタンを押そうとすると、出口付近に座っていた白髪の老人に先に押されてしまった。宙に浮いた手を下げて、太股の上に置いてある供花を優しく抱える。
あの白髪の老人も目的地が同じ場所なのか、とても大事そうに花束を抱えていた。車掌のアナウンスと同時に出口の扉がプシューと空気が抜けていくような大きな音を出す。