小毬汐日

磨き抜かれた宝石のような作品。
お話の序盤。
突然『僕』が出て来て、彼は一体誰だろう? と読者は思います。
子供かな? 小学生? いやいや、もしかしたら中学生くらいかもしれない。
しかしその予想は、クロの一言で全く逆の方向へと捩曲げられます。

「いいか? お前は『猫』だ」

その時の読者の気持ちは、もしかしたら健太の気持ちとひどく似ているのかもしれません。
このマジックショーのような仕掛けに私があっさりとひっかかってしまったのは、福子さんの描く動物たちがあまりに表情豊かで、生き生きとしている所以だと思います。

最終的な結末も、「保健所は怖い」とか「人間は悪い」というだけで終わらせず、遠くから公平に、そのどちらの立場も眺めていらっしゃるように感じました。
大人になった健太が語るという形式が、感情的な若い健太を上手に支える役割をも果たしていたと思います。フォントや文字色の変化も素晴らしい効果を生んでいました。

穏やかな時間がゆったりと流れる、素敵な小説でした。