月季花
胸に沁み入る物語
黒は哀しみを表すなんて誰が決めたのだろう。
梅雨の終わり。
しめやかに行われる告別式の会場で。
黒いスーツを着て、黒いパンプスを履いて、黒い傘を差して、君と出逢った。
それは不道徳なアルバイト。
私を冷ややかに見つめる遺族の少年。
「お父さんが亡くなって、哀しいね……」
亡くなった男性とその息子、男性の「愛人」に成り代わっていた女性。
薄灰色の靄が少しずつ晴れて、最後は透明な涙が伝う……そんな印象を受けました。
文章は淡々としていて味気ない。けれどそれがこの物語をより惹き立て、読者を魅了していきます。
謎めいた女性に隠されていた優しい心と、大人びた冷たい少年の心に潜む闇。
読み終えた後にふわりとした余韻が残る、とても素敵な作品です。
じわり、胸に沁み入る名作短編。
――泣くために、あなたと出逢った。