麻井深雪

救われる孤独
20代後半、結婚も考えていた付き合いの長い恋人に突然捨てられてしまう。
その喪失感は想像に難くありません。

今後また新しい出会いをして、結婚を考えるまで深く付き合って…、その頃自分は一体何歳?

考えただけで気が滅入ります。
そんな大人ならではの手痛い失恋の痛み。
孤独感。

忙しない都会の情景描写と相まって、染み込むように伝わってきました。
雰囲気たっぷりの世界を創り上げるのが本当にお上手です。

だからこそ、普段したことがないゆきずりの関係を初対面の街角ミュージシャンに求めてしまう。
その嫌悪されそうな行動も、十分に共感でき、物語に入り込めました。

最後まで手を出さずに、『歌う』という方法で彼女を救った、名前も明かさない彼。
とても素敵でした。

彼の名前が最後まで出てこなかったことも。
これからを予感させるような余韻を残した終わり方も。
とても素敵な物語でした。

体を重ねても孤独は癒されない。
心を重ねられる相手を見つけることでしか、本当の意味では救われない。

大人の愛を知る方こそのメッセージだと感じました。