麻井深雪

魅かれあう魂
両親を事故で失い、闇を抱えて周りに壁を作る孤独な少女と、人を喰らい涙する美しい鬼との出会い。

鬼に喰われたクラスメイトの存在を美桜以外が忘れてしまう日常の描写がリアルで、まるでミステリーを読んでいるかのようにドキドキしました。
そして時の流れの中で同じように忘れることを選んだ美桜の葛藤が、上手に描かれていたと思います。

お互いの孤独を癒すように魅かれて行く二人に、この二人の向かう運命はハッピーエンドにはならないんじゃないかと悲しい思いを抱きながら読み進めました。

少しずつ前向きな心を取り戻していく美桜が、自分の無力に涙するところは共感できて涙がこぼれました。

ラストの舞は情景描写が綺麗で丁寧で、美しい舞が自然に頭に入り込んできて、桜の描写と共にとても美しかったです。

二人の迎えた結末は予想外のものでしたが、春の風が吹きぬけて一斉に桜が舞い散るように、寂しくも暖かな感情が胸に広がりました。

千歳ちゃんがとても良い子で、ラストシーンの台詞には涙が溢れました。
美桜のことを分かってくれる彼女の存在に救われ、暖かな読後感に浸ることができました。