ざわめいた駅前。
誰も人のことなどお構いなしに行き交っているロータリーに憲太(けんた)は軽自動車を停めた。
憲太は初心者ドライバーだ。
何事もなく、すんなり一発で車の免許が取れた時は日本は大丈夫かと心配した。
音楽をかけるのでさえ怖いのに、車を停めている最中にケータイの着信があったので慌てている。
「あぁぁ晃(あきら)??ちゅんと来てますよ。今、ロータリー」
「なにドモってんだよ。「ちゅんと」て。黒いニットにベージュのトレンチだって」
「え?どの辺にいらっしゃるの??」
憲太は車を降り鍵をかけると駅に向かって歩き出した。
彼、西本 憲太(にしもとけんた)は、現在待ち合わせをしている。
会ったこともない42歳の女性。
通話中の 神戸 晃(かんべあきら)の母親と。
買い物をしすぎた晃の母を晃が迎えに行けないので代わりに憲太が行くことになったのだ。
別に特別、憲太が頼りにされている訳ではない。
面倒なことを押し付けられただけなのである。
それを憲太本人も気づいているが、しょうがなく行っている。
…という訳ではなく。
結論を言うと、憲太は晃が怖いのである。