1、光る朝
ここは、北海道余市町。北の都札幌市から車で東へ走ること一時間半の田舎町。ここで産声を上げたのが嶋守ケンタくん。
どこにでもあるごく普通の家庭で育った普通の人間のチョット奇異な物語。
が、それは新時代の幕開けの予兆となる出来事。ごく普通の嶋守ケンタのお話しがここに始まります。
「お母さんおはようございまぁ~す!」
いつものように大きな声とともにケンタの1日が始まった。
ケンタ18才の朝。
「ねえお母さんなんか変、僕の眼がなんか変なんだけど・・・」
ケンタはそう言いながらリビングに入ってきた。
「あらそう・・・いいから早く座ってご飯食べなさい」母夏美は素っ気なく云った。
「ねぇ、お母さんちょっと聞いて・・・ねぇ!ったらぁ」
「ハイ・ハイ、そんなことより宿題やったのかい?昨日は夜遅くまで起きていたようだけど学校で眠くなるわよ」
夏美は味噌汁の入った鍋を混ぜながら全然ケンタの言葉に耳をかそうとしません。
ケンタは続けて「なんか解らないけど朝起きたら急に眼が変になったみたいなんだ僕の目か頭がおかしくなったのかもしれない」
目をこすりながら部屋を見渡していた。
ケンタの目には、リビングのテレビやテーブル・イスもリビングの中がみんな光って見えた。ひと通りケンタは母に説明をした。
「お母さんはどう思う?お母さんはどう?」
「はい、光ってます。それより朝食早く済まして下さいケンタ殿」
母は全然取り合ってくれない。
首を傾げながら狐に摘まれたかのように釈然としないまま朝食を済ませた。
もしかしたら学校に行ったら同じ経験をしてる友達がいるかもしれないと思い足早に家を出た。
歩いていると小鳥のさえずりが聞こえたので目を向けた。
やはり街路樹や小鳥も全てが光り輝いて特に植物は輝きが強く、
それぞれ生きているのが手に取るように実感できた。
それだけではない、その小鳥の意識が伝わってくる。
いつも観ている景色なのに・・・・今日は不思議だ???
一見優雅に歌を歌いながら自由に飛んでいるように見える小鳥たち。
でも人間には、そう映るだけで小鳥たちは捕食しようと目をこらし、意識の一部では鷹やハヤブサの外敵に気を配りながら飛んでいる。
優雅に飛んでいると思っているのは人間側から見た勝手な思いこみなのかもしれない。ケンタには何となく解った。
ど・ど・どうしよう・・・俺って本当に頭が変?・・・早く校に行ってみんなに聞いてみよう。急いで学校に向かった。
朝礼が終わり親友の蛯子に聞いてみた。
「僕さあ、朝起きたら全てが光って見えるんだ。鳥を見ても鳥の意識みたいなのが伝わってくるんだ。なんか僕お頭変かもしれない。どう思う?蛯子くんはそういう経験無い・・・?」
じっと聞いていた蛯子は「そういう時は牛乳に紅茶のティーパックを入れて砂糖を大サジ2杯入れ飲むと治るよ」と訳の解らないことを言った。
聞く相手を間違ったかもしれない。彼にはもう絶対聞かない、ケンタはそう心に決めた。
次にクラスで一番の秀才で博識家の晃平君に同じことを聞いてみた。
「その光って何ルクスくらいの強さで光っていた?・・・色は?光の方向性は?・・」
めんどくせ~~何でこいつは理屈っぽい秀才っぽい聞き方を・・
こいつにももう聞かない。
僕は今朝の事は心の中に封印しておこうと思った。
そしてあの二人とは距離をおこうとも思った。
そのうち光る現象も無くなりケンタは一過性の不思議体験と自分に言聞かせ心の中に封印した。
でもその体験が嶋守ケンタの一生に大きな影響を及ぼすことになるとはその時のケンタには予想しませんでした。