『嘘』を食べて生きる彼女は一人の人形職人と出会う。
食べた彼の『嘘』は悲しく、儚く、そして甘い味がした・・・
初めて経験する別れは彼女には重過ぎる結末だった。

「それ」はけっして凶悪でも、強大でもなく、そのままであればきっと大勢に知られずに終わっていただろう存在。

これはそんな小さな「モノ」の話。


来た

「お前そういえばこの前貸した金返せよ」

来た

「え?この前っていつだよ?」

来た来た

「お前なあ、そういう言い逃れは見苦しいぞ?」

来た来た来た

「ほんとわかんないって、なんのことだ?」

あとちょっと

「はあ、もういいよじゃあな」

いまだ!!

「ちょっ、ちょっと待てよ・・・」


そこで私は勢いよくかぶりつく

濃厚な罪の意識が、たっぷりのった頭に


「・・・?どうした?」

「え?あ?あぁ・・・すまん、なんだか一瞬頭が真っ白になって・・・」

「大丈夫か?調子悪かったなら言えよ」

そのやりとりを見ながら彼女は満足そうに微笑む。


彼女は『嘘』を食べる、それが主食なのだ。

食事の後のまったりとした時間に浸りながら、彼女は森の中をふわふわと泳いでいた。

そう文字通り泳いでいるのだ。彼女は人間ではない、物の怪、魔物、そういった類のモノだ。

そういった「種類」を聞けば大半の者は、人間に害を為すものを想像するだろう。

だが彼女は違う、いや「今は」違うのだろう。