しずく
さよならの記憶
記憶を失った少女、繭。
ささやかな自分の居場所を求め、失われた恐ろしい「何か」から逃げつづける。
懸命に生きる彼女のか細い後姿を見失わないように、私も一緒に走る思いで、繭の後を追いかけました。
その臨場感や、物語への引き込まれ感は半端ではありません。
この吸引力のわけは、当たり前のようにそこにある緊迫した空気です。
なぜ読み手がこんな空気を味わえるのかというと、ヒロインの「繭」が、本当に「守りたくなる存在」として描かれているんです。
とてもか弱く、それでいて美しい。
魅力的なヒロインの存在が、物語を最後までぐいぐい引っ張ります。
行き着く土地土地で彼女を待ちうける運命。
目をそむけたくなるような数々の不幸の中にも、ずっと一筋の光が射しているように感じたのは、やはり彼女の「失われた記憶」の存在であり、かつて彼女にかかわり、彼女を愛していた人たちの存在でした。
運命に翻弄され続けた彼女のたどり着くところには、きっと彼女の描く素晴らしい絵の中のように、人の心を惹きつけて、全てを許し、また新しい記憶が生まれ続ける場所なのだろうと、思います。