繭結理央

黄色い線の内側まで
……お下がりいただかなくても、十二分に楽しめます(笑)。


まさに、各駅停車のような当作品。唯子の“記憶”を急がずに辿っていく。

「観察」という駅。
「初恋」という駅。
「嫉妬」という駅。
「葛藤」という駅。
「真相」という駅。
「失恋」という駅……。

ひと駅、ひと駅、電車は丁寧に停まる。

だが、それら降りる予定にない駅たちは、唯子にとっていずれもが、改竄の利かない“代わり映えのない構造”ばかり。過去は変えられず、淡々と寝過ごすしかない。

ところが、唯一、彼女の目に鮮やかな駅があった。それが、降りる予定の駅。ここが唯一、彼女の“未来”を司る駅だった。

初見の路線ではないが、馴染みのない各駅停車……というのがキモだろうか。それはまさに、初見とは思えない青年の、しかし馴染みのない成長を認めた瞬間を暗示しているかのよう。そしてその暗示は、未来を司る駅にこそ改札を開いていた。


当作品に限って、ハッピーエンドで終わらなかったのもキモかも知れない。乗客たる私たちは永く1/fを楽しめるんだから。

車掌に敬礼。