少女と少年は、高校生だ。
二人は、交際している。
ある日、少年は少女に言った。
「俺の家に、来ないか」
それは本当に、突然。
放課後、駅のホームで。
少女は小首を傾げ、少年を斜めから上目遣いに見つめた。
舐め回すように、試すように。
そして、訊いた。
「どうして」
少年は答えず、少女の腰あたりにぶら下がっている左手を
自らの左手で掬い上げた。
少女は、少年の手を払った。
「クエスチョンには、アンサーでしょう」
少年は眉間に皺を寄せ、少女を睨んだ。
「俺のクエスチョンについてのアンサーを、
聞いてないんだけど」
「目的を言わないのならば、行かない」
少女のアンサーに、少年は顰蹙を買った気分になった。
少女の瞳は真っ直ぐ少年を捉えていて、
だけど淀んだ色をしていた。
夕陽の色を感じさせるのは少女の長い髪の橙色の艶だけで、
決してそれに温かみはない。
「俺と、しないか」
「なにを」
精いっぱい装った平静を、少女はいとも簡単に剥がした。
少年は謎の羞恥に襲われ、その場に蹲った。
踏切の音が、ざわめく少年の心が壊れるのを保護した。
「言えないなら、しようとか言わなきゃいいのに」
ローカル線が、ホームに着いた。
少女は少年を立ち上がらせ、
その一瞬の隙で少年の胸に額を付けた。
「変わらないなんて、誓えないんだから」
「誓わないよ」
「じゃあ、行く」
少女は少年と同じ駅で降り、家に上がった。
少年の両親は、不在だった。
二か月後、少女と少年は他人になった。
恋人でなく、他人に。
戻った、と言うべきなのだろうか。
少女も少年も、
お互いに追いつくことなど出来ないと思い知った。
子供なんだ、まだ。
何れ少女は女に、少年は男に為る。
変わらないなんて誓わずとも、
変わってしまったものは取り返せない。