お願い…
あと少しの間だけでいいから、彼を私に下さい。
必ず来る、その期限まででいいから…。
貴方はカウントダウンの期限を言わない。
私も聞かない。
貴方をずるい男にするつもりはなかったのに…
ごめんね…。
私は彼の首に腕を巻きつけ、胸に頭をこすりつける。
彼のスーツの冷たい生地の感触。
その深い深い紺色の海に、私は自ら溺れて行く…。
彼の身体がしなるように空中に舞うと、ボールがゴールネットに吸い込まれ、そして床に叩きつけられるように落ちた。
真剣な表情だった彼は、目元と口元を少し緩め、襟足まで伸びた髪と首筋の間に左手を入れ、そこに空気を送り込むように無造作に揺らすと、また走り始めた。
藤元幸(フジモト コウ)
彼を知ったこの日から…
私、槙野美織(マキノ ミオリ)は、
呆れるくらい彼を愛した…
いくつもの季節を越えて…
【2017.8.28〜9.5】