繭結理央

切なくも躍動する叙述
“叙述トリック”

折原一(おりはらいち)先生が代名詞。文章そのものがトリックになっているという、ミステリの中でも高難度と思われる手法であり、ハマればハマるほどに自分もトライしてみたくなる罪深き手法でもある(私はそうだった)。

が、コレがたいそう難しい。伏線を明かしすぎず、また隠しすぎないバランス配分に苦心することとなる。

苦心の跡はこの作品にも見られた。少なくとも勢いのままに書かれたわけでないことだけは、冒頭から読み解くことができる。叙述トリックに挑んだことのある身として「頑張ってるなぁ」という感想まで漏れる始末(笑)。

上から目線ではなく、正直に、よくできた作品だと思う。テーマである初心者マークへの、世間のバイアス(偏り・先入観)を予測できた“閃き”からして面白い。

社会問題にも係る内容なので「面白い」とするだけではならないが、しかし、著者の創作意欲が面白いと思った。主人公・誠の齢に関して“ぎりぎり”を設定したあたりにも意欲を感じられ、瑞々しい。

誠の“溢れる涙”は胸を焼くが、ゆえなる創作の躍動をも見せていただいた。