筆を走らせる、紙を丸め捨てる。それの繰り返しを今まで何回してきただろう。ふと、机の上のお茶に目をやると熱めに入れたお茶はすっかり冷め切って湯気が無くなっていた。一体どれくらい放置していたのだろうか。
「おい。」
机に向かって声をかける。返事はない。
「聞こえているだろう。返事ぐらいしろ。」
湯呑を小突く、すると湯呑がいきなり立ち上がり台所に走っていく。
「おい。」
今度は部屋の片隅にある屑入れに向かって声を飛ばす。
すると屑入れは立ち上がり俺が捨てた元原稿の紙を拾い集めだす。
俺の家は誰も来る事がない、唯一人、俺の編集者以外は誰も…
そろそろアイツがこの間の原稿を完成させて持ってくる頃だろう。
「失礼します。」
家に入ってきたアイツは静かに本を差し出して帰って行く。
そう、俺の家には誰も来ない。