うのたろう
ひさしぶりに泣いた。男のくせにかっこう悪い。くそったれ。苦しいじゃねーかよ。
タイトルの言葉が少々雑になってしまったが、まずはこの作品を読み終わったあとのダイレクトな感想だ。
物語は野球でいうところの表と裏が存在する。
前半戦は主人公・伊吹の視点で進められるファンタジー。契約日記という「記憶」と「しあわせ」を交換するいかがわしいアイテムを軸に物語が淡々と進んでいく。作中で伊吹が記憶をうしなっていくさまも、こっそりとだが、わかりやすく描かれている。
そのようすが意外にもばればれで、うまいけど……あれ? と思ってしまう。
だが、まったくそんなことはない。みごとに作品にコントロールされてしまった。そのことにあとで気づかされ二重におどろく。
物語はすっきりとしないまま後半戦。
裏はファンタジーではなく現実だ。契約日記の秘密のすべてが明かされる。前半戦の淡々とした文体と異なり、おもいきり感情的な天使の一人称でつづられる。
ここで度肝を抜かれる。前半との温度の差に、今まで淡々とおさえつけられていた読み手の感情は解放されて極限まで高まる。そして泣かされるのだ。
切ない恋がテーマ。こんなアプローチもあるんだな。
読んで損はない。