漂うパンの香ばしい香りに誘われて
やってくる客は数知れず。
小さな鈴をぶら下げた木製の扉をゆっくり開けて
今日もあの人はやってくる。
…あの、傷が増えてませんか?
頬に絆創膏
少し癖のある茶髪
被っているフード
いつものブースに颯爽と歩を進め
トレーにいつものパンを乗せて
レジに持ってくる姿を、何度見ただろうか
「120円になります。」
そして、私はパンの代金を頂戴する。
容姿とまったく似合わないメロンパンを買う男と
時給890円のパン屋で働く女の
恋の物語りのはじまり、はじまり。
甘い薫りのする貴方から
離れるのは
もう、無理かもしれない。