フリーター街のタクシー[第二集]

作者Cba

 オフィスのビル群に明かりが灯った頃、歩道には顔を緩ませるスーツ姿が増え始めた。今日の仕事振りをふりかえる言葉も、当面の困難を越えたような穏やかな調子だ。金曜日のオフィス街は、靴がアスファルトを叩く音がいくぶん弾んで聞く事ができるのだと、白藤は感じていた。

 六車線の幹線道路は大小の車が列をなし、騒音と排ガスの匂いを発している。白藤は渋滞に背を向ける格好で、歩道の一端に設けられた柵にもたれてプラカードを構えていた。『金曜の夜にふさわしい飲み屋、ご案内します。フリーター街のタクシー』。幹線道路から申し訳程度に枝分かれした脇道には、愛車であり営業車であるプジョー306が路上駐車されていた。


(第一話:「フリーター街と気弱なスーツ」より)