麻井深雪

その嘘は誰の為?
元カノ蓮への思い出を大切に胸にしまいながら、彼女を突き放すような態度を取る千春。
何故、彼は苦く切ない想いまでして嘘を吐き続けなければならないんだろう、と真相が気になって一気に読み進めました。

常に苦しい千晴の心理描写が続き、物語は切なさ一色で展開されます。

それを引き立てているのが天候の描写。
灰色の曇りの天気は物語の雰囲気そのもの。
それから心まで痛くなるような雨のシーン。
最後の別れの日となるはずの卒業式の日も雨。

最後に雨が止んで灰色の空が戻ってくるのが印象的でした。

嘘を吐ききれない、未練たっぷりの不安定な心理描写と行動もこの年ならではのリアルな描写に感じます。
そして、その嘘が相手ではなく自分を守る為のものだったと千春が気づくところも、それが人間の本質なんだとハッと気づかされます。

最後の終わり方も物語のテーマに沿っていて、上手いなと思いました。
細かい演出が作品の雰囲気を素敵に彩っている作品です。

ぜひ読んでその世界観を感じてください。