繭結理央

静かな“火”
友恵を核にして、気の弱い牛舎主の武志、遊びをおぼえたその妻の絹代、友恵の財を奪ったホスト崩れの亮太……4人の思惑が蠢く静かなホラ-。


住家まで失うとは、友恵はどれだけ残念な女なんだと笑みさえ浮かぶ冒頭だったが、読み進めていくうちにそれどころではなくなる。引きこまれる。直接のグロテスクな描写はさほどないが、悪趣味な想像力さえ掻き立てられた。必要な情報だけを静かに並べた、著者様の表現力と誘導力の勝利に他ならないと思う。

目に見えない蒼白い“火”が、いつの間にやら全身に延焼し、脳内まで搦め取られていたような読了感。極上のスリルが控えているだろう後日談を思わずイメ-ジ、読了してもなおゾクゾクが止まない。著者様によって、まんまと“燃えさせられて”いたらしい。

神秘主義的なオカルトやグロテスクなだけのスプラッタ-(否定ではありません)で統括されたホラ-とは一線を画す。あえてジャンルを充てるならスリラ-か。ゆえに心理描写・情景描写に偏らない姿勢が必要に思うが、この作品には優秀なバランスが秘められてあると思った。

和製ホラ-好きはどうぞ“火の後始末”にご注意を。