錬徒利広

真実
ホラー小説というよりかは、論説文に近い、という印象を受けた。

 一語一語がとても大切にしてあるのには感心した。
 ワープロ世代の我々は自分の書いた文章に酔って余計なものを書いてしまいがちだが、この小説は逆である。
 自分が磨き抜いた一文を何度もリフレインさせることによって、読者の脳裏に、作者の哲学を刻みつける。
 私の頭の中にも、強烈な記憶が残った。

 さて、この小説が論説文だというのは、この小説に書かれていることが決して絵空事などではないからである。
 確かにこれが現実で、「いじめをなくそう」なんて綺麗事は通用しない、というのが読んでいてよく分かる。
 多くの既存の作品ではせいぜい「なぜいじめがいけないのか」くらいまでしか言及していなかった。だが今作はその定理を踏まえた上で「いじめ」の本質に大きく接近している。
 問題は「なぜいけないのか」ではなく「なぜなくならないか」ではなかろうか。真理に迫ることこそ、物事の本質を掴む手がかりだ。

 私が気に入ったのは「キスも知らない少年が殺し方は知っている」という一文。
 両者のスタンスが恐ろしい。