鳥葬

奏でられるもの
ピアノの一音、作家が綴る文章の一節。それらが、体験する者の心に、無形の、しかし何か確かなものを造形するのを、みんな知っています。それを体現するのは誰にとっても難しいことだけれど、触れて伝わるもの、体温を文章が持つことができれば実現する。この作品がそうであるように。

視点の主体である主人公だけでなく、そこに居る人々全てに体温がある。生きている。誰かに起因する事件は、その人間が持つ思考と行為の極点が突出したものであり、ある意味では誰の物語でもあり得るために、理解するほど息苦しくなる。そして誰もがそうした濃密な空間で生きている。生きているから苦しいんだ。

乱脈に耽溺して曖昧になっていましたが、恋愛って確かにこういうものだった、と思い出しました。今、徒労に終わってもいいから恋がしたい。今生きているのだから今。

どうか終わらないで、と願ってしまっています。感銘を受け過ぎた読後に本をひっくり返し、しまいには「えーと、ISBN4…」と書籍コードまで覚え始める名残惜しさ。これは大切な本になるんだろうな、と予感と共に。