もう、こんな世界うんざり――幼い頃に母を亡くし、全ての後ろ盾を失ったフィオラ姫は、王宮の隅で孤独に耐えていた。親の愛を与えてくれない父王、無関心な継母や異母兄弟、家臣たち。
「結婚すれば、この灰色の日々から抜け出せるかもしれない」、年頃になって縁談が持ち上がると姫は淡い期待を抱くが、これはすぐに掻き消される。婚約者となった青年は、姫の上辺しか見ていなかった。
「私自身を愛してくれる人なんていないのだわ」。フィオラ姫の孤独が限界に達したとき、不思議なことが起こった。なんと、目の前の婚約者が宝石に姿を変えたのだ。
『私の一族は魔女の血を引いている』と、亡き母の言葉を思い出した姫は、自らに魔法の力があることを知る。そして、次に選ばれた婚約者も、その次もそのまた次も、密かに宝石へと変えていってしまう。消えた婚約者の人数は十二人にのぼり、姫は手に入れた宝石を鎖に通して首飾りにした。
次の婚約者も同様の道を辿ると思われたが――十三人目の婚約者として現れた勇者ユリシスは、思いもよらない発言をする。
「こんなに美しい姫の首元を飾れるなんて光栄だ、俺は喜んで宝石になろう! ただ、俺はあなたの唯一でありたい。他の者たちは人間へと戻してもらえるだろうか?」
怪訝に思いながらも、フィオラ姫はユリシスの言葉を受け入れる。
さらにユリシスは言った。「宝石は、光の加減で色や輝き方を変える。部屋にこもってばかりいないで、庭に出て宝石となった俺を日の下で見てみてほしい」。
引きこもって生活していたフィオラ姫は久しぶりの散歩をし、その後もユリシスの言葉のままに様々な場所へと出かけるようになる。
そのうちに、フィオラ姫の心には少しずつ変化が訪れて。ある日、出かけた先の景色を美しいと感じた姫は、宝石姿のユリシスを人間に戻す。
「どうして俺を、人間に戻したんだい?」「宝石がどんな色に輝くかではなくて、この景色を見たあなたはどんな表情をするのか、瞳がどんな色に輝くのか、それを見てみたいと思ったの」
――これは、孤独なお姫様が風変わりな勇者と出逢って、大嫌いだった世界を愛するようになるまでの物語。
✳︎ メアリ・ド・モーガンの童話「フィオリモンド姫の首かざり」に着想を得た物語ですが、内容や結末、登場人物は別物です。“シンデレラもの”は世にたくさんありますが、それと似たような感覚でお読みいただければと思います。
子供も大人も楽しめる西洋の童話、幻想的なお伽噺、ファンタジー世界。こうした物語の魅力を、web小説、漫画や音楽と掛けあわせて、新たな価値を生み出せたらと考えました。
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