高山 春がいるクラスは学校内にいるとされる『雪女』の噂で持ちきりだった。春はその噂を「くだらねぇ」と一蹴する。
ある日の午前中、大量のプリント用紙を運ぶ女子生徒とぶつかりそうになってしまう。避けようとした際に手が当たってしまい、女子生徒が持っていたプリント用紙が床に落ちてしまう。
拾い集める際に用紙に「冬空 ましろ」と名前が書かれていたのを見つけ、思わずその名前を口にする。「冬空 ましろ」はその女子生徒の名前だった。
ましろに怪我がないことを確認し、ついでに自己紹介を済ませた春は先を急いだ。
ましろの手に触れてしまった際、彼女の手が冷たく感じられたことを思い出したが、本当に一瞬の接触だったため、気のせいだと思うことにした。
数日後の昼休み、屋上にて1人で昼食を取っている春の元にましろがやってくる。
「お隣、良いですか?」
ましろは、美味しそうにサンドイッチを食べながら、春に話しかける。春はましろのその姿に少しだけ見惚れてしまう。
それからしばらくの間、春とましろは2人でご飯を食べたり話をして、いつしか互いを『ましろさん』『春さん』と呼び合う程の仲になる。
ある日、授業中に体調を崩し高熱を出してしまい、保健室に運ばれた春。いつの間にか保健室にいたましろが春の額に触れ、熱を冷ましていく。
「ふふふ……雪女の特別サービスですよ〜」
春は体調が少し良くなる。
ましろは自分の身体が、日毎に少しずつ体温が低下していく謎の症状に蝕まれていることを告白し、自身を『雪女』と称して春に警告する。
「私のことはこれで忘れちゃってください。身体には気をつけてくださいね。雪女との約束ですよ……春さん……」
春はましろを放っておけず、助けようと自分なりに思いつく限りの策を講じる。ましろは警告を無視する春を拒絶しようとしたが、春の行動力と真っ直ぐな優しさに負け、少しずつ心を開いていく。
奮闘虚しく、ましろの体温は下がり続ける。諦めたくないと粘る春に対し、ましろは自分がどういう存在か、いつから体温が下がり始めたかを語る。
幼い頃に事故で両親と弟を失い、孤独を感じ続けていた幼少期のましろ 自分だけ生き残ったことに罪悪感を感じ、一度も墓参りしないままに今まで生きてきた。このまま冷たくなって最後には死んでしまうだろうと諦めるましろに、春は最後の策を講じる。
「家族に会いに行こう……2人で……」
ましろの家族が眠る地へ赴く2人家族の名前が彫られた墓を前にして身体を震わすましろだったが、春に背中を押され、意を決して家族に声をかける。
その間、春の目にはこちらを優しく見つめる1組の夫婦と、ましろの傍に寄り添う1人の少年の姿が見えた。
家族に話したいことを全て話し終えたましろは、周囲を気にせずに涙が出なくなるまで泣いた。
ましろの手を優しく握る春。その手は少しだけ温かくなっていた。
墓参りを終えてから、ましろの体温は少しずつ上がり続けている。『雪女』と噂されていた彼女はもういない。
そんなましろの体温を確かめるために、春はましろと手を繋ぐ。