幼い頃に両親が離婚し、ずっと父親と二人で暮らしてきた朝比奈千秋。彼女が大学に進学した年の春、父親から告げられたのは再婚の話。しかも相手は十歳歳下だというのだから驚きだ。だが、千秋は反対しなかった。実の母と離婚したときも、父に非は全く無かったから。彼が新しいパートナーを見つけたのなら、素直にそれを応援したかった。
しかし、まさかこんなことになるとは――。
挨拶に訪れた父の再婚相手、佐藤香織は千秋の好みどストライクの女性だったのだ。
彼女を前にして千秋はひとり悩む。惹かれてしまうような相手が、この家にやってくる。しかも義理の母として。だが今さら反対するわけにもいかない。千秋は二人を受け入れ、やがて香織が引っ越してくる。
父と彼女の再婚によって、千秋を取り巻くものは変わっていく。歓迎できる変化も、そうでない変化も、両方あった。
そして千秋は決心をした。自分の気持ちは胸に秘めておくと。この想いを言葉を伝えたところで、誰も幸せにならないから。二人の幸せのために自分は我慢する。それでいいじゃないか。きっとそのうち、この感情だって懐かしくて甘酸っぱい思い出に変わっていく。そのときを、待とう――。
『でも、その最善手はあくまで短期的な最善手で、よく言えば自分に一番近い感情に従ったもので。選択が正しかったのか、間違っていたのか。良かったのか、悪かったのか。そんなこと、選んだときの私にわかるはずなんてなかった。』
表紙:Photo by Jerry Wang on Unsplash