ホームレス画家
「人間が厄介なら、人生は面倒だ」といっても死ねないから、今日も臆面もなく馬鹿の一つ覚えのニガオエを描き散らすのだ。その上、酒か入れば舌まで回る。あげくの果てには目を回してひっくり返る。そこへ通りがかった母子連れに「正ちゃん、お勉強をしっかりしなければ、将来ああいう風になるのよ」と顰蹙買うことおびただしい。昔、唐人が「一日生きれば恥も増す」と言ったそうだが俺なんかは一刻一刻が恥の上塗りだ。
自慢じゃないが足のつま先から頭の毛の先まで恥の上塗りで出来ている。なんでも聞くところによると、この美観地区では占い婆と引っ掛けカメラ人とアクセサリー、それにこの俺の大道ニガオエ師ほど哀れで滑稽な者は、世に絶えてない言うのが定評だそうだ。さもありなん、タイコ持ちの帽子をかぶり、日蓮宗のお題目みたいなヒゲを生やし、最近油絵の筆など持ったことのないくせに絵の具だらけのapron姿で、生きているのは俺ばかりだと言わぬばかりに石垣前で鎮座している面を見ると浅ましくなるのであろう。ジオゲネスは樽の中、牛若丸は橋の上、俺は石垣背にして大見栄切ったとて、何かの拍子に悲観の虫がおそってくると、もうこんな下等な人間のするような仕事は今日かぎり辞めちまって、チリガミ交換のほうが遥かに潔いのではと深刻に考えるのである。
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