私は好きな人と付き合えたことがなかった。告白を女性の方から何度かされたことがある。最初に告白された人を振ったら、その子が泣いたため、憂き目にあった。それ以降、告白してきた子に対して、付き合うようにしているが、好きになったことは一度もなかった。2人でどこか行く時は、いつも作り笑顔であり、嘘の優しさを振りまいていた。
それでも、遥香を前にする誰よりも安心できた。ありのままでいれた。いつも一緒に隣並んで歩いていたが、私に彼女がいたため、踏み込んだ関係になれなかった。仮に彼女がいなくても、告白する勇気が私にあったか分からなかった。
遥香から見て、私はただの友達なのかもしれないが、私にとっては変えのきかない存在であった。
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そこには数十センチの距離しかなかった。それでも私にとって、その距離は友達としてはそれより遥かに近く、恋人になるにはそれより遥かに遠かった。
亜織にはいつも恋人がいた。恋人だけに見せるその笑顔は、私と2人だけの時には決して見せなかった。
亜織にはいつも恋人がいた。恋人だけに見せるその優しさは、私と2人の時は決して感じさせなかった。
亜織はまるで水のようだった。ときには、どんな形にもなり、私の心の奥まで染み渡り、ときには、どんなことも可能にする推進力となる。
亜織はきっと、私のこの気持ちには気づかないのだろう。そして、私もこの気持ちを隠し続けてしまうだろう。
私はまるで熟れることのない果実のようであった。