2020年東京ー
「ねえ、知ってる?亜矢ちゃんママも見たらしいんだけど」
様々な問題を抱える現代日本の首都。社会に悶々と生きる人々の間には、怪人と呼ばれる謎の存在がまことしやかに囁かれていた。
「お前の周りにある悪いことは、全部、怪人のせいだ」
ある日を境に、次々と現れ、人々を襲うようになった悪の怪人たち。市民を救うために組織されたのは、「緋色の部隊」。
国の特務機関であり、秘密組織。怪人と戦うための力を見込まれたヒーローたちが集う戦隊であった。
ヒーローたちは、人知れず、街の平和を守るため、日夜、悪の怪人とバトルを繰り広げる。
「人々の笑顔、それが俺たちの戦う理由だ」
ヒーローたちは、それぞれの正義を掲げ、苦悩しながら、悪の組織のボス、マッドハッターを打ち倒すため、人々を守るため、今日も悪の怪人と戦うー
「・・・何してるんだ!早く!追い付かれるぞ!早く、高い所へ!」
ー思い出せ、あの傷跡を。
人々のどうしようもない思いから怪人を作り出す能力を持つ怪人使い「マッドハッター」の真の目的。人々の記憶の奥底に眠る災害「かいじんだいばくはつ」の記憶。町に広がりつつある宗教団体「アンリ幸福教」。そして、ヒーローと怪人の戦いの鍵を握る二つのボクシングジム。
ぼやけた現実と、かすんだ真実。
怪人とはどこから来たのか。なぜヒーローがいるのか。
「あのときやはり、東で何かが起こったのだ」
熾烈を極めるヒーロー活劇の中、すべての謎が明かされていく。
そしてーあまたの喪失を前に苦しみ、そしてそれを力に変えて生きてきた強靭で華奢な人間の心を描く物語が顕れる。
なぜヒーローは戦うのか。なぜ怪人は現れたのか。
目の見えなくなったオリンピック選手がいた。
両親が不仲な少女がいた。
子供を愛する母親がいた。
心の弱いまま大人になった者がいた。
大切なものを失った者がいた。
真実と現実は救いを与えず、未来を与えた。
怪人たちのいない3月へと季節は動き出す。英雄の夢から醒めるための現代伝奇ファンタジー。