道路に咲く小さな野花を見詰める認知症を患う老婆。
「お前の寿命は、後いくつだ」
と、物悲しげな表情を浮かばせながら野花に呟き、震えている手で首にぶら下げているカメラを構えれば、シャッターを切った。
「ばあちゃん、勝手に出歩かないでよ」
その後ろから息を切らしながっら走ってくる青年が、老婆の隣に立ち言い放った。
「この雑草撮ってたの?」
息を整えた青年が老婆に聞く。
「雑草…ではない、綺麗な花」
野花から視線を逸らさずに言った老婆は続けて独り言のように呟く。
「あの子に似てる、あの子に」
カメラを弱々しい力で握り、目を潤わせる老婆に青年は問いかけた。
「あの子って?」と。
「…誰、だったかなあ」