聖女・シンシアはある日、養父である大神官から魔物討伐部隊の救護役として参加するよう言いつけられる。
危険地帯から少し離れた救護所で負傷した騎士たちの治療をして回っている最中、運悪くSランクの魔物と鉢合わせしてしまい、一人で闘うことに。
死闘の末、なんとか勝利したものの、魔物が完全に消滅す…
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聖女・シンシアは守護と治癒の力に関しては、アルボス帝国で右に出る者がいないと評されるほど、優れた力を持っていた。
ある日、養父であり大神官であるヨハルから帝国騎士団の救護役として魔物討伐に参加するよう言いつけられる。理由はヨハルが守護していた西の結界が魔物に破られたからだった。
危険地帯から少し離れた救護所で負傷した騎士たちの治療をして回っている最中、シンシアは運悪くSランクの魔物と鉢合わせしてしまい、一人で闘うことになってしまう。
死闘の末、なんとか勝利したシンシアだったが、魔物が完全に消滅する前にうっかり結界を解いてしまったため、悍ましい生物に変わる呪いを受けてしまう。
身体の激痛に苦しみもがいていると、足を滑らせてそのまま数メートル下の川に落ちてしまった。
次に目が覚めて起き上がると、何故か二足歩行ができなかった。視線を下に向けると動物の前足に変わっている。さらに後ろを振り向くと長い尻尾のようなものが生えていた。
自分がどんな悍ましい姿をした生き物に変えられたのか想像しただけで震え上がる。
意を決して、側を流れる川で自分の姿を確認すると――なんと猫の姿になっていた。
戸惑いつつも聖女の力が使えるかどうかを確認するため、近くにいた血を流して倒れている男の身体の上に乗って治癒を施す。
どこかで見たことがある顔だなあっと呑気に思っていたら、なんと彼は大陸一の暴君として名を馳せている――雷帝イザークだった。
治癒を施し終えたシンシアは慌ててその場から去ろうとするが、目覚めたイザークに捕らえられてしまう。
身体の上に乗っていたことで不敬罪となり、腰に下げている剣で首を跳ねられるのでは? と震え上がるシンシア。しかし、イザークは首を跳ねるどころかシンシアを抱き上げると優しく背中を撫でてきた。それもうっとりとした表情と潤みを帯びた瞳で。
なんと雷帝イザークは大の猫好きだった。ただ残念なことに彼の猫愛に反して、身体は猫アレルギーだったのだ。
猫に触れられると狂喜するイザークによって、シンシアはそのまま宮殿に連れ帰られる。宮殿に着いたらすぐさま教会に連絡を取って大神官に呪いを解いてもらおうと試みるのだが……。
「救護所から失踪した聖女・シンシアを捕まえ、即刻私の前に連れてこい」
(このまま人間に戻ったら職務放棄で私の首が飛ぶ!?)
イザークの恐ろしい一声で人間の姿に戻りたくとも、戻れなくなってしまったのだった。