【あらすじ】
主人公の白井絵里香は、33歳のOLで独り身である。同僚の倉持広大に密かな恋心を抱くも、なかなか行動には移せない。絵里香の同僚の高木佳奈は、違う部署の山岸鉄平と社内恋愛真最中。そんな浮つく佳奈を呆れ顔で見る絵里香。そんなどこにでもありそうな会社のオフィスの風景の中に、ある日異物が紛れ込む。新しくオフィスにやってきた椎名由紀は、一呼吸するごとに色気が零れ落ちるような女性だった。上品で、妖艶で、美しい由紀。オフィスを華やかにする彼女だったが、ただの美しい花ではなかった。優しい彼女の笑顔は静かに剥がれていく。ある日の飲み会の後、酔い潰れた佳奈を家に送り届ける由紀。佳奈と同棲していた鉄平と由紀は顔を合わせることに。出会った瞬間鉄平の心に釣り針を引っ掛けた由紀は、そのまま鉄平を静かに釣り上げる。そのことに気づいた佳奈と鉄平の関係は悪化していく。佳奈が由紀を問い詰めるも、由紀は鉄平に手を出していないと言う。ある日の仕事終わりに退社する際、絵里香と由紀はエレベーターの中で鉢合わせる。佳奈と由紀の話を聞いていた絵里香は由紀と気まずい雰囲気になるが、そんな折にエレベーターが停止してしまう。絵里香が由紀に鉄平との関係を聞くも、ここでも由紀は手を出していないと言う。実際由紀は鉄平と肉体関係はおろかキスの一つもしていなかった。ただ鉄平の心を数時間の間に掌握しただけなのだ。由紀の目的が読めない絵里香。由紀は停止したエレベーターの中で静かに語り始める。由紀は、鉄平が好きなわけでも、男好きなわけでも、佳奈に嫌がらせをしたいわけでもなかった。かといって自己肯定感を高めたいわけでもない。「佳奈を救いたかった」、それが由紀が述べた理由だった。