喫茶店のマスター・陽向は、幼い頃自分と父を置いて出ていった母の死と、異父弟・時雄の存在を知る。
ディスレクシアの陽向の、父親違いの弟はよりによって書道家。
読書家だった母への蟠りもあって、接し方に戸惑う陽向。
二人の間を縮めていくのは、様々な物語に登場する食べ物。
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物語全体のあらすじ
父は蒸発し兄弟もない時雄は、しかし若き新進気鋭のデザイン書道家として持て囃され、大きなマンションに一人暮らしていた。自分との生活格差に唖然となる陽向だったが、対人恐怖気味で無口、本の虫で引きこもりがちらしい時雄が、明らかに利権のみが目的で親切顔で近づく狡猾そうなデザイン業界人に囲まれているのを目にして放っておけなくなり、母の遺骨の問題は一時棚上げして、ぎこちなくも交流をしていくことになった。
亡き母は読書家だった。陽向は勉強も読書も苦手な子供で、そのために母は自分に失望して出ていったのではないか(その後軽度のディスレクシアと判明した)という疑いが、陽向の胸にずっとあった。そのせいか自分とは正反対の時雄に複雑な感情を持ってしまう。
一方精神的に不安定なものを抱える時雄は、創作のプレッシャーも重なると何も食べられなくなってしまう。そういう時にかろうじて食欲を呼び起こすのは、彼が今までに読んだ『物語の中に登場する食べ物』の記憶だった。それ以外を受け付けようとしなくなる時雄に、陽向は戸惑いながらも何とか彼にその食べ物を用意してやるようになる。そのうち陽向は、自分自身にも『物語の食べ物』とのエピソードがあること、忘れていた母の思い出などを思い出していく。
少しずつ陽向と時雄は馴染みあっていき、やがて時雄は陽向の家で同居することになる。陽向は物語の食べ物を通して知らなかった母の思いを垣間見、時雄も陽向を通じて彼の周りにいる人と触れ合い世界を広げていく。だが、思わぬ真実が、育まれ始めていた信頼関係を揺さぶることに。