「あめなるみちーコトダマ姫ワカ」

作者asuwa

その女の子は、皇女として生まれながら、両親から三歳になる前に捨てられた。
イサナギという父の厄の歳と、イサナミという母の厄の歳に生まれたため、それによる厄難を受けぬようとの習わしで、形だけ捨てたようにして、川から船に乗せて流し、あらかじめ控えていた家臣に拾わせたのだという。
 しかし、本当の理由は…

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その女の子は、皇女として生まれながら、両親から三歳になる前に捨てられた。

イサナギという父の厄の歳と、イサナミという母の厄の歳に生まれたため、それによる厄難を受けぬようとの習わしで、形だけ捨てたようにして、川から船に乗せて流し、あらかじめ控えていた家臣に拾わせたのだという。

 しかし、本当の理由はそれだけではなかった。

ヒルコ、長じてからはワカと呼ばれたその女の子は、生まれながらに、人並外れた視力と霊力と能力を持ち、まだ赤子のうちから人々の心を見抜き、獣や植物とも交流している姿に気づいた周囲が、気味悪がって、宮中の混乱や人々の不安を招くことを恐れ、遠く離れた地に遣ることにしたのだった。


 幸い、イザナギ、イザナミ夫妻にはその後、ほどなくまばゆいばかりの太陽の精を受けた世継ぎの男児、アマテルが生まれ、誰もが、捨てられた女のことのことは忘れていった。


 だが、この地球上に最初に降り立ったクニトコタチからの筋を引くタカミムスビである偉大なる大君、トヨケカミの、おおいなる真の力を受け継いでいたのは、実は、このイサナキ、イザナミの最初の女児、ワカの方だった。


養父母のもとで、愛と理解を得て大切に育てられたワカ。

そこでは、特殊な能力を隠さずともよく、むしろ養父カナサキ(スミヨシ)によって、生まれながらの力は伸ばされて、世の役に立つような用い方を学ぶのだった。

ことに、宇宙の成り立ちにのっとったウタという形で、ワカが五七の波に言葉を乗せたなら、目に見えない世界から何でも言葉の通りに生み出すことができた。

ワカは、物質を作る48の元素を文字と言葉にして、人々に教え、誰もがそのコトダマ使いになることができるようにと伝授しようとしたが、なかなかそこまで使いこなす者はいなかった。だが、人々はその力に憧れ、称え、彼女の生み出すウタそのものをワカ(和歌)と呼ぶようになった。

ときには、それをまじないや祓いのウタに、あるいは恋した相手の心をつかむためにと、縦横無尽に駆使するコトダマの姫、ワカ。


祖父、トヨケカミからもらった宇宙の秘密、モトアケの図も使いこなし、ヒトの心を読み取り、宇宙のめぐり、あめなるみち、に沿うようにと事象さえ操る。

とらえようのない力を持った姉のワカを、頼りながらも恐れる弟アマテル。

ワカを母のように慕う腹違いの、もう一人の弟、スサノヲ。

影の大帝である祖父トヨケカミ、父イサナギが没して、やがて地上は、アマテルとスサノヲと、その二人をめぐる目に見えない力関係に分断されていきそうになる。

姉の力を自分の方にと考える二人の弟の間で揺れるワカ・・・。

最後にワカが選んだ道とは・・・


 主要各人物


コトダマ姫 ワカ (幼名 ヒルコ)

  この地上の人類最初の祖、クニトコタチから7代目にあたる両親、イザナギ、      イザナミの間に生まれた皇女。

祖父母から特殊能力、霊力を譲り受けてやがて『ことのは』に宿る力、コトダ

マを駆使。

  そのコトダマの力を用いて国難や災害さえ回避する。

  ネコエの秘密を人々に教え、五七調での健康法や、物質化、具現化の方法のウ

タを確立。

  生きとし生きるものすべを愛し、調和を何より大事にと考える宇宙の法則、「あめなるみち」を身をもって人々に示し、慕われながら暮らしているが、やがて、国の二分化が迫ったとき、弟たちに和解の約束を誓わせ、その行く末を見守る存在となって、自分を封印してこの世から姿を消す。

  人々の中に、やがて後世、偉大なる女性がいたという記憶が、弁天とか、かぐや姫とか、天照大神となって遺るのみとなる。

  

アマテル

  ワカの弟 クニトコタチから8代目世継ぎとして富士の麓に生まれ育つ。

  見目麗しく秀逸、非の打ちどころない性格。

不老不死のチヨミ草を食し、八つの湖にそれぞれ龍を飼い従える。


   スサノヲ

  ワカの異母弟。紀州にてオニと恐れられた土着の種族の娘を母にもつ出生と血に苦しむ。動物的ともいえるほど本能に優れ、情が深い。土着の民や、弱い者たちに絶大なる人気で慕われ、やがて兄のアマテルと拮抗。

  

トヨケカミ

     ワカの祖父。五代目タカミムスビ。大帝とも仰がれ、偉大なる霊力、能力で、人々を指導。先祖から伝わる宇宙の「あめなるみち」の伝道者。


マカナ

  トヨケカミが想いを寄せたおそらく他の天体から地球を見に来ていた女神。当時まだ異星間交流があり、或る満月の晩、トヨケカミと結ばれ、やがてイサナミとなる娘、ナミを生み、天界に還る。


イサナギ イサナミ

  ワカの両親。

七代目の地上のアマカミ。フタカミとも呼ばれ、宇宙の法則「あめなるみち」を遂行。

  

オモイカネ

  ワカが長じてから想いを寄せる若者。トヨケカミに教育された優れもの。

  ワカと夫婦になり、ワカを愛するが、ワカの能力と使命を知り、思い悩む。


クニトコタチ

  初代アマカミ、地上に最初に現れたヒトとして、半人半霊の祖、アメノミナカヌシから示された宇宙の法則、をもとに地上を整備してクニの元を作る。


とほかみえひための八皇子

  クニトコタチの教えを継いだ八人の皇子。三人を残し、地球の各地へと派遣。


スミヨシ

  ワカの養父。

  ワカの能力を引き出し、なおかつ、地上で生かし適応するための知恵を授ける。


アマノコヤネ

クシミカタマ

  それぞれ、アマテルとスサノヲの右腕である重臣。

  

  クニトコタチからはじまった古のアマカミたちの記録、宇宙のあめなりのミチを編集していつかの後世のためにと残す。