歌の才能だけが頼りだった。
わたしには人魚の両親からもらったそれだけしかなかった。
十六歳、冬。
子どもからおとなへなりたかったユキは、自分の才能がまやかしであったことを知る。
自身への失望と、拠り所を失った心細さ。
救ってくれたのは、真夜中の池で投身自殺を目論んでいた(ように見えた)美しい青年で……
過去を乗り越えられず、現実に居場所を失いつつあった彼へ、ユキがしてあげられることはただひとつ。
夢を見せてあげたい。
灰色の景色さえも鮮やかにいろどる、すばらしい夢を。
「舞台の上でなら、どんなおとぎ話も、夢物語の世界だって、本物にできる。それが、わたしがたったひとつだけ神さまに与えられた、本当の魔法」
愛なんて嘘つきの言い訳だって、そう思っていた。
でも、真実の愛だって、ほんとうにあるのかもしれない。
ほかの誰でもないユキが、愛することを知ったから。