フロル・ネージュの街の歌

作者崎浦 和希

人は、愛を言い訳にして嘘をつく。
『あなたは人魚姫の娘だから、人をとりこにする美しい歌声と、ダンスを踊るすてきな足を持っているの』
愛していたから、そんな嘘で捨てられた子を慰めた。
子どもは嘘だなんて知らずに、舞台の上で歌い、踊っていた。
にせものの魔法が作った、にせものの人魚姫。

すべての魔法…

歌の才能だけが頼りだった。

わたしには人魚の両親からもらったそれだけしかなかった。



十六歳、冬。

子どもからおとなへなりたかったユキは、自分の才能がまやかしであったことを知る。


自身への失望と、拠り所を失った心細さ。

救ってくれたのは、真夜中の池で投身自殺を目論んでいた(ように見えた)美しい青年で……


過去を乗り越えられず、現実に居場所を失いつつあった彼へ、ユキがしてあげられることはただひとつ。


夢を見せてあげたい。

灰色の景色さえも鮮やかにいろどる、すばらしい夢を。


「舞台の上でなら、どんなおとぎ話も、夢物語の世界だって、本物にできる。それが、わたしがたったひとつだけ神さまに与えられた、本当の魔法」



愛なんて嘘つきの言い訳だって、そう思っていた。

でも、真実の愛だって、ほんとうにあるのかもしれない。


ほかの誰でもないユキが、愛することを知ったから。