初めて恋心を自覚したのは、高校生のときだった。
相手は隣に住む綺田家の長男、菫さん。
私より五歳も年上の彼は、当時美大生で彼から醸し出される大人な雰囲気が魅力的だった。
高校生の私は彼の指先から描かれる繊細で独創的な表現に惹かれ、そのまま菫さんを好きになった。
私が大人になるまでの間に、菫さんはアートの才能を開花させ、あっという間に手の届かない遠い存在になっていった。
二十八歳の彼は、今や日本を代表する世界的アーティストだ。
私は菫さんのアーティストとしての活躍をただ液晶画面越しに応援しているだけ。
そんなだから、私は菫さんへの憧れを憧れのままにするほかなかった。
どこかで落ちぶれてくれた方が遥かにましだっただろう、と思う。
こうして、菫さんへの恋とも憧れとも尊敬ともつかない気持ちを持て余したまま、私は平凡な社会人二年目の夏を迎えていた。
イラスト/ノーコピライトガール