「わたしにとってはそれはもう、わたしの世界の外の存在かな」
「どういうこと?」
「わたしのパズルはもう完璧なの。そのピースが今更、どこにはまる?」
……第1章 そのピースが今更、どこにはまるより抜粋
「母さんは戦友だからな。戦友は絶対に見捨てない」
とても、印象的な言葉でした。その時の父の目、その色、その深さ。
……第2章 戦友より抜粋
どうして人は時折、触れれば血を流すかもしれないものに触れようとするのか。痛みを与え続けるものに近寄り離れないのか。冷たく切りつけてくる雪を美しいと思うのか。
……第3章 赤がほしいより抜粋
「なんか憂鬱になるようなことでもあるの?」
「……」
ありませんという答えがすぐに返ってくると思ってたのに。彼女は含み笑いをした。
「先生、わたしと結婚できて嬉しいですか?」
「そりゃ、もちろん」
「そうですか」
あっさりとそう返すと前を見て歩いている。
……第4章 モナリザの微笑
「きっと大丈夫ですよ」
理沙がうかうかとスパッとそんなことを言う。ヒヤヒヤした。
「そうかしら」
「そう。大丈夫です」
「なんで?」
「……」
そこで理沙が上目遣いになって黙る。これは、あれだ、なんて言おうか考えている顔だ。
「だめだ、だめだと思ってもだめですよ」
僕がそう声をかけて助け舟を出した。タクシーがロータリーに滑り込んできた。
……第5章 だめだだめだと思ってもだめだより抜粋
「本当の優しさとは時に」
「うん」
「相手の嘘につきあい、真実には触れないことなのかな?」
それこそ、相手が裸なのに綺麗な服ですねと言ったり、或いは、見えないものを見えるといい、そこには何もないことには触れないことなのだろうか。
……第6章 裸の王様より抜粋