きみどりに始まりふかみどりに終わる②

作者汪海妹

事情あり親とは縁を切って生きている似た者夫婦の暎と理沙。しかし、暎は今も親元にいる実の兄のことを気に病んでいる。そんな折、とある出来事をきっかけに澤田家の家族の形が変わっていく。
母の反対する相手と結婚しようとしているこのは。周りの家族は2人の和解を求めて仲裁しようとするがなかなかうまくいかない。…

「わたしにとってはそれはもう、わたしの世界の外の存在かな」

「どういうこと?」

「わたしのパズルはもう完璧なの。そのピースが今更、どこにはまる?」


……第1章 そのピースが今更、どこにはまるより抜粋


「母さんは戦友だからな。戦友は絶対に見捨てない」

 とても、印象的な言葉でした。その時の父の目、その色、その深さ。


……第2章 戦友より抜粋


どうして人は時折、触れれば血を流すかもしれないものに触れようとするのか。痛みを与え続けるものに近寄り離れないのか。冷たく切りつけてくる雪を美しいと思うのか。


……第3章 赤がほしいより抜粋


「なんか憂鬱になるようなことでもあるの?」

「……」


ありませんという答えがすぐに返ってくると思ってたのに。彼女は含み笑いをした。


「先生、わたしと結婚できて嬉しいですか?」

「そりゃ、もちろん」

「そうですか」


あっさりとそう返すと前を見て歩いている。


……第4章 モナリザの微笑


「きっと大丈夫ですよ」


理沙がうかうかとスパッとそんなことを言う。ヒヤヒヤした。


「そうかしら」

「そう。大丈夫です」

「なんで?」

「……」


そこで理沙が上目遣いになって黙る。これは、あれだ、なんて言おうか考えている顔だ。


「だめだ、だめだと思ってもだめですよ」


僕がそう声をかけて助け舟を出した。タクシーがロータリーに滑り込んできた。


……第5章 だめだだめだと思ってもだめだより抜粋


「本当の優しさとは時に」

「うん」

「相手の嘘につきあい、真実には触れないことなのかな?」


それこそ、相手が裸なのに綺麗な服ですねと言ったり、或いは、見えないものを見えるといい、そこには何もないことには触れないことなのだろうか。


……第6章 裸の王様より抜粋