ありがとうが言えなかった。ありがとうと言えなかった。
その言葉を言ってしまうと、自分のこの、切羽詰まった、そうせざるを得ない気持ちの一端をもれみせてしまう気がしたからです。
それは親にも見せられない剥き出しの自分でした。裸の自分という言葉ではまだ足りない。衣服だけではなくまるで皮膚すら剥いでしまった自分を晒すぐらいの気持ちだった。それは痛くて誰にも見せられない剥き出しの自分です。
親には、親だけでなくて誰にも、見せられなかった。
飛行機は飛んだ。様々な自分を中途半端なままで福岡に残し、わたしは新しい場所へと進んだ。
そして、わたしは東京で、別人になった。
…本文より抜粋