〝願えば叶う〟
そう信じて様々な想いを抱く人々が、駅の構内に溢れている。
〝願えば叶う〟
それをどうしても信じることができなくて彷徨う人々も、また同じ列の中に溶け込んでいる。
〝願えば叶う〟
いつしかその言葉から見捨てられ耐えかねただれかが、風と共に通り過ぎる快速電車に飛び込んだ。
おかげで僕は30分で行けるはずの学校最寄り駅に三時間かけて到着し、その間はずっと立ちっぱなしで足が痛くて、人混みもあふれて揉まれて疲れてしまって、今日というすべての時間を失ってしまったかのような気になっていた。そしてこんな日に限って僕はイヤホンを持ってくるのを忘れてしまっていたり、天気もどんより曇が漂っていてどこなく気分を滅入らせてくれて、それに追い打ちをかけるかのように、きっとそのうち、雨が降るんだ。
* * *
神さまは、本当に実在するのだろうか。
今でも世界はこの問いについて様々な見解を示していて、けれど結局、その答えの決着はまだついていない。あらゆる人々が多くの宗教を信仰しているし、その多くの宗教があらゆる形で神さまを崇めている。そしてその信仰を巡って世界各地で絶え間ない争いも続いていて、同時に無神論者の数は激増を続けている。
神さまは、本当にいるの?
神さまは、実はいないの?
だれもその姿を見たことがないから、結局、答えはわからない。
でも僕は、みんなより少しだけ本当のことを知っている。
もしかしたら神さまは、すでに多くの人の前に姿を現しているのかもしれない。
もしかしたら神さまは、人間たちと一緒に普通に生活をしているのかもしれない。
そして、もしかしたらそれは事実なのかもしれない。
僕は神さまの末裔。
その証拠となる二つの力を、僕は〈はじまりの神さま〉から受け継いでいる。
一つは、人間の〈願い事〉を聞くことができる力。
もう一つは、生涯で一度だけ、人間の〈願い事〉を叶えることができる力。
でも僕は、だれかの〈願い事〉を叶えてあげるつもりなんて、これっぽっちも考えていなかった。
だれが、人間なんかに。
世間のニュースやなんかを見ていれば、僕じゃなくてもそう思うことだろう。
僕は今までどこにでもいる人間として振る舞って生きてきたし、それはきっと死ぬまで続いていくんだ。だったら、僕は神さまの末裔なんかじゃなくて、本当にただの一人の人間ということになる。どこにでもいる、最低で最悪な人間の一人。
そう思っていた。
けれど結局、僕の人生はそうはならないようだった。
これから僕は一人の女の子に恋をして、やがて〈はじまりの神さま〉から受け継いだ力を、僕は彼女のために使うことになる。
でもそれには大きな代償があって……
これは、どこにでもいる最低で最悪な人間が――静かな雨の中で捨て猫と一緒にいた彼女の丸まった背中を見かけたことをきっかけに、ちょっとだけ神さまの真似事をしたような……、そんな物語だ。