出征していった兄の身代わりとして、金魚の婿をつとめる少女と、彼女の花嫁に仕える少年。ふたつの婚礼に翻弄されるほかないふたりは、海神の姫君として祀られる金魚をめぐり、海辺の街をさまよい歩く。
――あなたが守ろうとしたものの、今際の名残を見てみたかった。なにせこの街は明日、神様ととことわに袂を別つ。




「わたし、逢瀬に赴いて参ります」


「――どこのどなたと?」


「そちらの座敷の金魚様と」




「人の男の妻になる前に、わたし、神様と恋を語りにゆくのよ。朝彦あさひこ




明日には神様ととことわにさよならをする海辺の街で。


わたしは今日、神様と恋を語る。