その絵はシオンの花だった

作者文月 廿香

 美術部のひとつ上の先輩は、『クロエの香り』がする人だった。

「このシャンプーね、クロエの香りってやつなんだあ。私のお気に入り。ねえ中村、覚えといてよ」
 それから僕の中で、先輩の匂いは『クロエの香り』になった。

「中村はきっと、上京して美大へ行くし、将来は美術に関係する……そうだな、画商とか…