ようこそイケメン独身男子の洋館へ~花嫁修業は野菜作りから

作者神宮寺琥珀

―――猛暑が続く7月某日、畑作業中、おばあちゃんが倒れたーーー



 近所に住んでいる田中さんからスマホに連絡が入ったのはちょうど、

お昼休憩時、同期のまるちゃんとランチタイムを満喫していた時だった。


テーブルに並ぶ2つの大皿には大好物の唐揚げがドカッとてんこ盛りに

のっかっている。それを2人でかぶりつく。


ああ、このひとときが幸せだ。


多少、周りの目は気になるが、食べている時の私達は食べることに集中していた。

一人でこれだけの大量の物を食べるのには抵抗があっても、2人なら全然

恥ずかしくない。私はまるちゃんとのランチタイムが一日のうちで一番

楽しかったんだ。


――その時、


まるちゃんが箸を置いた。


「まるちゃん? どした?」


「舞…あんな…」


舞というのは私の事だ。


いつもなら大皿にのっかっている唐揚げなんて、2人で食べると

ペロリとあっという間にほんの数分で食べきる。

まるちゃんが途中でお箸を置くなんて考え難い。


只事ではない。もしや、まるちゃんに心境の変化が!?

―――と、私は察知した。


「なに?」


「実はな、うち…ダイエットしてんよ。やけん、残りの唐揚げ全部、

舞が食べて」


うそでしょ? まるちゃんがダイエット?


「な、なんで? どしたん? 4月の検診で何か異常が見つかったん?」

「そうやないけど…」

「だったら、唐揚げ、一緒に食べようよ」

そりゃ、こんくらいの唐揚げなんて一人でペロリと食べれるけど、

こんなもん一人でペロリと食べたら、私ばっかりデブって、

あっという間にまるちゃんの体重を超えてしまうやんか。

「ごめん、舞…。うちはダイエットするって決めたんや」

「だから、なんで?」

「実はな…うち…」


ピコピコピコ……


「あ、ごめん。電話鳴っとる…」


着信画面に【田中】という表示。


「田中さんや…何やろ…」

「あ、ええよ。電話 出て」

「ああ。うん」


一旦、話を中断して、私はスマホの受話器ボタンに人差指を押し当てた。


「もしもし…。あ、田中さん?」

『舞ちゃんかい…』

「ああ…うん」

『今…大丈夫かい?』

「うん。昼休憩やから…」

電話の向こうの田中さんの声は何だか落ち着きのない様子だった。


「実は…おばあちゃんが倒れてな…」


「え…?」



スマホを持つ手が震えていた。


おばあちゃんが…倒れたって…!?


「舞…?」


『…救急車で病院に運ばれたんよ。舞ちゃんもすぐに行ってあげて…』


「うん、わかった…」


ガタン…


私はスマホを切ると慌てて席を立つ。


「舞!! どした? 顔、真っ青やで」


「おばあちゃんが倒れたって…」


「え? 舞、すぐに病院に行った方がええんとちゃう? 社長にはうちから

言うとくけん。はよ おばあちゃんの所に行ってあげて」


「まるちゃん…。ありがと」


「舞…きっと、おばあちゃん大丈夫やから…」


「うん…」



―――そして、私はおばあちゃんが運ばれた病院へと向かった。