10代の若い男女が遊びでできてしまった赤ちゃん。
当然、彼氏の方はめんどくさい事が嫌いで、結局、彼女は病院にも行けず、
中絶もできずに彼氏の家のトイレで産んでしまった。
彼氏はそんな彼女に優しい言葉をかけることもしないで『捨てて来い』
と彼女に言い放つ。それは大晦日の事だった。
その夜は雪が舞っ…

 幸子…元気にしていますか?


 幸子…今、幸せですか?



 あの頃、本当はこの腕の中にあなたを優しく抱きしめてあげたかったーーー。


 

 でも、あの時の私はまだ子供だったんだーーー。




 

 ごめんね、幸子……  ごめん…幸子……



 あなたを捨ててごめんなさい………




 ふと、見上げる夜空には粉雪が舞っていた。込み上げてくる想いが

瞳から涙を流していた。


 


 あの大晦日の夜も、こんな風に雪が舞っていたーーー。



 あの時の罪を忘れる為に私は高校卒業後、この町から逃げ出し都会暮らしを

選んだ。だけど、東京で暮らしていても、どこにいても私の頭からあなたの事が

離れることはなかった。


  

 夢に出てくるのは、いつもあの日、最後に見た幸子の幼顔だった。

寒い粉雪が舞う夜空の下、須崎神社に置き去りにして、籠の中で白く冷え切った

あなたの顔が夢に出てくる度びに、『どうか、幸子が生きていますように…』

と願う。


スマホや新聞、テレビのニュースで幸子の事が事件で取り上げられることは

なかった。幸子は生きている。きっと、あの後で、幸子は神社の人に拾われて

育てられたのだろう……

そう考えると、なぜだか心が少しホッとした。それだけでも私は救われた

気がしていた。


 




―――――あれから20年ーーー 

 




――― まさか、再びこの町に戻って来ることになるなんて……






 小宮和美こみやかずみは粉雪が舞う夜空を見上げるーーー。


 


 粉雪は頬を伝いゆっくりと溶けていく。そのうち水滴はじわじわと垂れ

流れていた。

 

 それでも私は暫くの間、粉雪が舞う夜空を仰いでいたのだった――――ーーー。