「俺に助けを請うってことは、俺のものになるってことだよ。分かるか、お前の爪の先髪の一筋まで、もう全部全部俺のものだ」
大歓楽街・クレナダ。
その片隅にある中規模の劇場。
お酒と音楽で人を酔わせ、一時現実を忘れさせる淡い夢の世界。
少女リゼットの居場所はそこにあった。
いつの日か大きな舞台を夢見ながら、毎夜その歌声を響かせていた。
けれどそんな生活は、ある日ヤバげな取引現場を目撃してしまったことで一変する。
口封じに殺されそうになった彼女を助け出したのは、街を支配するグルナ商会のトップ・レゾン。
それはいつの日からか恋焦がれていた、特別な男。
男の庇護下に入ってから、リゼットの暮らしは一変する。
「リゼット、俺のカナリア。その可愛い囀りを聞かせてくれ」
甘い甘い糖蜜漬けのような日々は、けれどどこかほの暗く重い執着にまみれていて――――
――――逃げることは、もう許されないのだ。