女の子の肩を抱き寄せ一緒に見るなら、沈んでいく夕日がイイか、それとも昇る朝日がイイか――それはもちろん夕日がイイに決まっている。そのまま夜を迎え、月明かりの下で「グフフフフ……」という流れになるだろう。いや、しかし……やはり朝日も捨てがたい。なんと言っても始まりなのだ。「これから二人で昇っていこう」と耳元で囁[ささや]けば、彼女はきっと「嬉しいっ」と可愛い笑顔を見せ、腕に巻きついてくるだろう。それにだ、「君は沈みゆく夕日のようだ」と言うよりは、「君は昇る朝日のようだ」と言う方が美しいのではないか。
常々苦悩する煎路[せんじ]だが、そういう場面[シーン]まで何とかこぎつけなくては、いつまでたってもただの妄想だ。だからこそ、女の子に費やす時間は惜しまない。
「うえぇぇい! この番号が目に入らぬか――っ!!」
紙きれみたいにペラペラの『ペラッペラphone』を得意げに掲[かか]げ、煎路が雄たけびを上げる時、彼の軽い頭の中ではいつも、ホットでリッチな日が昇っている。
掲げている携帯電話は見た目とちがって密度が濃いが、持ち主の方は見た目も中身も薄っぺらい。
「大成功だぜ、アニキ! 今日はムリヤリ数字[すーじ]交換までこぎつけたぞっ。『人生種まきゃ実も生るさ』って名言もあるよーにな、どんどんばらまいてやるよっ」
砂糖ドバドバの珈琲や、糸ネバネバの納豆よりも、女の子にはめっぽう甘く粘り強い、煎路のいつものたわ言だ。
「聞かねぇ名言だな……金と面倒だけはまき散らすんじゃねぇぞ。お前は俺の、いや、世界中の女子たちの悩みの種なんだからな」
兄の焙義[ばいぎ]が表情なく単調な口ぶりで返すと、煎路は兄の横顔に殺意をこめて「ベロベロベェ~」を繰り返す。度合[どごう]家のありふれた毎日だ。
そう、この時の兄弟はまだ、何も知らずに過ごしていた。
遥か昔、二つの強大な命が終わった時から、彼らの『種』探しが始まっていた事を……