怡楽に満ちた時間は過ぎるのが早く、それは陽炎のように消え行く。
されど作られた思い出は儚くも現実で、形は無くも確かな生の影として存在を残す。
そして、その思い出の欠片は残滓も無く。
無月明夜に奇怪な闇が蠢き、無雲降雨の中で地を這い独りの月は雨を落とす。
欠片は願いを夢見て、思い出を夢見る。
硬貨は崩壊を抱え、裏は自我の確立を侵行し、表はその狂気に塗られていく。
金は狂おしく嘲笑い、黒は静かに憤る。
ひたすら欲望を願う月の赤く燃焦する夢が、破れ掛けていた帳(トバリ)を焔り放つ。
物語は終末を迎え、終結を奏で始める――――。
最後に奏でられるそれは、何色の音を形作るのか――――。
無題の終わり。名も無き終始が物語る。
※暴力、または残酷な描写が一部含まれております。