源義経黄金伝説 第三章 一一八六年 奥州平泉●義経と藤原秀衡

作者飛鳥京香

2.新・義経黄金伝説第三章 一一八六年(文治二年) 奥州平泉

奥州の黄金都市平泉にはすでに初雪が舞っている。十万の人口を抱える中心にある藤原秀衡屋敷が騒がしかった。多くの郎党が玄関先に並んでいる。

「我が子よ」

 義経と秀衡は、お互いの体をがっしりと抱き締めていた。それは親子の愛情よりも、もっと根深いものであった。いわば、お互いに対する尊敬の念であろう。が、この二人の仲むつまじさが、秀衡の子供たちの嫉妬を義経に集めたのである。

「よくぞ、ご無事で、この平泉まで」

 義経は肩を震わせている。それは平氏を打ち破った荒武者の風情ではない。

「遠うございました。が、秀衡様にお会いするまでは、この義経、死んでも死にきれません」

「死ぬとは不吉な。よろしいか、この平泉王国、ちょっとやそっとのことで は、頼朝を初めとする関東武士には、負けはいたしませんぞ。おお、どうなされた、義経殿」

 義経は涙を流し、秀衡の前にはいつくばっていた。