奥州の黄金都市平泉にはすでに初雪が舞っている。十万の人口を抱える中心にある藤原秀衡屋敷が騒がしかった。多くの郎党が玄関先に並んでいる。
「我が子よ」
義経と秀衡は、お互いの体をがっしりと抱き締めていた。それは親子の愛情よりも、もっと根深いものであった。いわば、お互いに対する尊敬の念であろう。が、この二人の仲むつまじさが、秀衡の子供たちの嫉妬を義経に集めたのである。
「よくぞ、ご無事で、この平泉まで」
義経は肩を震わせている。それは平氏を打ち破った荒武者の風情ではない。
「遠うございました。が、秀衡様にお会いするまでは、この義経、死んでも死にきれません」
「死ぬとは不吉な。よろしいか、この平泉王国、ちょっとやそっとのことで は、頼朝を初めとする関東武士には、負けはいたしませんぞ。おお、どうなされた、義経殿」
義経は涙を流し、秀衡の前にはいつくばっていた。