西行は、くらくらと、緊張し、少しよろめいた。やがて、中央土壇にいる人物がゆっくりと立ち上がり西行にかたりかけた。
源頼朝である。
最初に、西行を扇子で指し示す。
「高き所より、失礼する。今は私がこの祭事の主催者なのです。聞いて下され。御家人衆の方々。ここにおられるは、西行法師どの、元の名は、佐藤義清(のりきよ) 殿。鎮守府将軍藤原秀郷(ひでさと) 殿御子孫です。わが願いにて、ここ御祭りに来ていただいた」
驚きの声があがる。
平将門を討った藤原秀郷は、この坂東地方では、武士の鏡である。
「そしてまた、西行殿は、奥州藤原氏との御親戚だ」
再び感動の声があがる。
「さらには、今は、奥州藤原氏よりあづかった、奈良大仏塗金用の砂金を運んでおられる」
三度、声が、ご家人からあがり、競技場に響きわたって。
頼朝は、この御家人の歓声を受けてほんのり顔を赤らめていった。